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東京地方裁判所 平成6年(ワ)9637号 判決

原告

阿部修

被告

青山貴広

ほか四名

主文

一  甲事件被告青山貴広は、甲事件、乙事件原告に対し、金一六万円及びこれに対する平成四年一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件被告尾川美恵子は、甲事件、乙事件原告に対し、金一一万円及びこれに対する平成四年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件被告山田道雄及び同榮自動車株式会社は、各自、甲事件、乙事件原告に対し、金四五五万五八四四円及びこれに対する平成四年五月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  乙事件被告坂本治朗は、甲事件、乙事件原告に対し、金九〇万五〇三六円及びこれに対する平成五年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告のその余の請求を、いずれも棄却する。

六  訴訟費用は、甲事件被告青山貴広に生じた費用の二分の一と甲事件、乙事件原告に生じた費用の四〇分の一を、甲事件被告青山貴広の負担とし、甲事件被告尾川美恵子に生じた費用の二分の一と甲事件、乙事件原告に生じた費用の四〇分の一を、甲事件被告尾川美恵子の負担とし、甲事件被告山田道雄及び同榮自動車株式会社に生じた費用の一〇分の八と甲事件、乙事件原告に生じた費用の一〇〇分の三六を、甲事件被告山田道雄及び同榮自動車株式会社の負担とし、乙事件被告坂本治朗に生じた費用の一〇分の二と甲事件、乙事件原告に生じた費用の一〇〇分の九を、乙事件被告坂本治朗の負担とし、その余は、甲事件、乙事件原告の負担とする。

七  この判決は、第一項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件被告青山貴広(以下「被告青山」という。)は、甲事件、乙事件原告(以下、単に「原告」という。)に対し、金二七万五〇〇〇円及びこれに対する平成四年一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告青山及び甲事件被告尾川美恵子(以下「被告尾川」という。)は、原告に対し、連帯して、金一三万二〇〇〇円及びこれに対する平成四年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件被告山田道雄(以下「被告山田」という。)及び同榮自動車株式会社(以下「被告会社」という。)は、原告に対し、連帯して、金五五三万四五九五円及びこれに対する平成四年五月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告青山、同尾川、同山田及び同会社は、原告に対し、連帯して、金一九五万三四〇一円及び内金七五万九九三八円に対する平成四年五月五日から、内金一一九万三四六三円に対する平成五年四月一一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  乙事件被告坂本治朗(以下「被告坂本」という。)は、原告に対し、金五五一万二五二三円及びこれに対する平成五年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠上、優に認定できる事実

1  第一事故

(一) 第一事故の発生

(1) 事故日時 平成四年一月一九日午前三時一五分ころ

(2) 事故現場 東京都中央区新富一―一―三先首都高速環状外回り線上(以下「第一事故現場」という。)

(3) 第一原告車 普通乗用自動車(品川三四た七二一五)

運転者 原告

(4) 青山車 普通乗用自動車(足立五三ね二七六四)

運転者 被告青山

(5) 事故態様 先行車が事故を起こしたため、第一原告車が、第一事故事故現場付近で停止中、後方から進行してきた青山車が第一原告車に追突した。

(二) 原告の受傷及び治療状況(乙ハ一一の一及び二)

原告は、第一事故によつて、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫の傷害を負い、平成四年一月二一日に世田谷中央病院に通院し、同年二月四日から同年三月六日までの間、岡田整形外科医院に通院して(実通院日数七日間)、治療を受けた。

2  第二事故

(一) 第二事故の発生

(1) 事故日時 平成四年三月九日午後二時三五分ころ

(2) 事故現場 大阪府門真市大字三ツ島一五五一番地先路上(以下「第二事故」という。)

(3) 木下車 普通乗用自動車(大阪五五き二七〇六)

運転者 訴外木下英彦(以下「訴外木下」という。)

(4) 尾川車 普通乗用自動車(大阪五三む二九)

運転者 被告尾川

(5) 事故態様 原告は、木下車の助手席に同乗していたところ、木下車が渋滞のため、原告車が、第二事故事故現場付近で停止中、後方から進行してきた尾川車が木下車に追突した。

(二) 原告の受傷及び治療状況(乙ハ一三の一及び二、一四の一及び二)

原告は、第二事故によつて、外傷性頸部症候群、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負い、平成四年三月九日に摂南総合病院に通院し、同月一三日から同年四月二二日までの間、岡田整形外科医院に通院して(実通院日数四日間)、治療を受けた。

3  第三事故

(一) 第三事故の発生

(1) 事故日時 平成四年五月五日午後一〇時五〇分ころ

(2) 事故現場 東京都中央区日本橋浜町三―四四先首都高速六号線上(以下「第三事故現場」という。)

(3) 原告車 普通乗用自動車(品川三四た七二一五)

運転者 原告

所有者 原告

(4) 山田車 普通乗用自動車(足立五五く五一九一)

運転者 被告山田

所有者 被告会社

(5) 事故態様 原告車が渋滞のため、第三事故事故現場付近で停止中、後方から進行してきた山田車が原告車に追突した。

(二) 原告の受傷及び治療状況(乙ハ五の一及び二、六の一及び二)

原告は、第三事故によつて、外傷性頸部症候群、頸椎捻挫、腰椎捻挫、鼻骨骨折・打撲・挫傷・出血・副耳腔炎の傷害を負い、平成四年五月五日から同年八月三日までの間、岡田整形外科医院に通院し(実通院日数七日間)、同年五月七日から同月二一日までの一五日間、井上外科胃腸科病院に入院して治療を受けた。

4  第四事故

(一) 第四事故の発生

(1) 事故日時 平成五年四月一一日午前四時三〇分ころ

(2) 事故現場 東京都千代田区内神田二丁目一番先首都高速環状線外回り上(以下「第四事故現場」という。)

(3) 第二原告車 普通乗用自動車(練馬三三ま五五八七)

運転者 原告

(4) 坂本車 普通乗用自動車(足立五二む五五八〇)

運転者 被告坂本

(5) 事故態様 第二原告車が第四事故事故現場付近を走行中、同一方向に進行していた坂本車と第二原告車が衝突した。

二  責任原因

1  被告青山

被告青山は、前方を注視して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて進行した過失によつて本件事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

2  被告尾川

被告尾川は、前方を注視して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて進行した過失によつて本件事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

3  被告山田及び同被告会社

(一) 被告山田

被告山田は、前方を注視して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて進行した過失によつて本件事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

(二) 被告会社

被告山田は、被告会社の従業員であり、かつ、第三事故は、被告山田が、被告会社の業務に従事中、その過失によつて発生させたのであるから、被告会社は、民法七一五条により、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

4  被告坂本

(一) 被告坂本は、前方を注視して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて進行した過失によつて本件事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

(二) 債権譲渡(甲一五、一八)

第二原告車は、訴外ブレインズコーポレイテツド有限会社(以下「訴外ブレインズコーポレイテツド」という。)が購入していたものであるところ、右会社は、平成七年二月六日、被告坂本に対する、第二事故車に関する物損の損害賠償請求権を原告に対して譲渡した。訴外ブレインズコーポレイテツドは、平成七年九月七日ころ到達の内容証明郵便で、被告坂本に対し、被告坂本に対する右損害賠償請求権を原告に譲渡した旨通知した。

三  争点

1  共同不法行為の正否

(一) 原告の主張

(1) 第三事故

第三事故で原告に生じた人損は、第一事故及び第二事故と因果関係があり、かつ、被告青山の第一事故の過失、同尾川の第二事故の過失及び同山田の第三事故の過失との間には、共同関係があるので、被告青山、同尾川及び同山田は、民法七一九条により、連帯して、第三事故によつて原告に生じた人損を賠償する責任を負い、かつ、被告会社は、被告青山、同尾川及び同山田と連帯して、第三事故によつて原告に生じた人損を賠償する責任を負う。

(2) 第四事故

第四事故で原告に生じた人損は、第一事故、第二事故及び第三事故と因果関係があり、かつ、被告青山の第一事故の過失、同尾川の第二事故の過失、同山田の第三事故の過失及び第四事故の同坂本との間には、共同関係があるので、被告青山、同尾川及び同山田は、民法七一九条により、連帯して、第四事故によつて原告に生じた人損を賠償する責任を負い、かつ、被告会社は、被告青山、同尾川及び同山田と連帯して、第四事故によつて原告に生じた人損を賠償する責任を負う。

(二) 被告らの主張

(1) 第三事故で原告に生じた人損は、第一事故及び第二事故と因果関係がなく、かつ、被告青山の第一事故の過失、同尾川の第二事故の過失及び同山田の第三事故の過失との間には、共同関係がないので、第二事故で原告に生じた人損について、被告青山、同尾川及び同山田との間は共同不法行為は成立せず、被告青山及び同尾川は、第三事故で原告に生じた人損について責任を負わない。

(2) 第四事故で原告に生じた人損は、第一事故、第二事故及び第三事故と因果関係がなく、かつ、被告青山の第一事故の過失、同尾川の第二事故の過失、同山田の第三事故の過失及び第四事故の被告坂本との間には、共同関係がないので、第四事故で原告に生じた人損について、被告青山、同尾川、同山田及び同坂本との間は共同不法行為は成立せず、被告青山、同尾川、同山田及び同会社は、第四事故で原告に生じた人損について責任を負わない。

2  過失相殺

(一) 被告坂本の主張

第四事故は、坂本車が第四事故現場付近の右側車線を走行中、第二原告車が、方向指示をせずに、いきなり左側車線から右側車線にはみ出してきたため、坂本車のフロントバンパー左側付近と第二原告車の右後部リヤフエンダー付近が接触して発生したものであり、この様な第四事故の態様に鑑みると、大幅な過失相殺をすべきである。

(二) 原告の反論

第二原告車が、方向指示をせずに、いきなり左側車線から右側車線にはみ出した事実はない。第二原告車は、時速約六〇ないし七〇キロメートルで第四事故現場付近の左側車線を走行中、被告坂本が、前方を注視せず、かつ、制限速度を超過した時速約一一〇キロメートルで坂本車を右側車線に進入させた結果発生したものであり、原告に過失はなく、過失相殺は行われるべきではない。

第三争点に対する判断

一  共同不法行為の成否

第一ないし第四事故の日時、場所、当事者、発生の経過は、第二の一のとおりであり、当事者間に争いがないところ、右のような各事故の経過、場所的、時間的隔たりによれば、各被告の過失には、共同関係が認められないので、第三事故について、被告青山及び同尾川と同山田との間、第四事故について、被告青山、同尾川及び同山田と同坂本の間には、いずれも共同不法行為は成立しない。

二  各被告の過失と原告の損害の因果関係について

1  被告青山の過失と第三事故の人損との因果関係

(一) 前記争いのない事実、乙ハ一一の一及び二、一三の一及び二並びに一四の一及び二によれば、原告は、第一事故で外傷性頸部症候群及び腰椎捻挫の傷害を負い、平成四年一月二一日に世田谷中央病院に通院した後、同年二月四日に、岡田整形外科医院に通院したこと、岡田整形外科医院では、初診時に、頸筋と腰筋に緊張が認められたものの、X線検査等で異常を認める所見はなく、投薬と理学療法を施されて、経過観察となつたこと、原告は、同月一二日、同月二一日、同月二四日、同月二六日、同年三月二日、同月六日と岡田整形外科医院に通院して治療を受けたが、その際の治療内容も、投薬と理学療法を施されるというものであつたこと、原告は、同月九日に第二事故に遭い、外傷性頸部症候群、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負つたこと、岡田整形外科医院の岡田医師は、原告が第二事故に遭い、外傷性頸部症候群、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負つたことを確認して、第一事故による受傷は、同年三月六日付で症状固定となつたと診断していることが認められる。

(二) 以上の事実によれば、原告が、第一事故によつて負つた傷害は、他覚的所見のない外傷性頸部症候群及び腰椎捻挫であり、治療も投薬と理学療法が施されているだけで、経過観察となつたことに鑑みても、その症状の程度は、軽微であつたと認められる。そして、前記の岡田医師が、第一事故による受傷は、平成四年三月六日付で症状固定となつたと診断したのは、確かに、原告が第二事故に遭い、外傷性頸部症候群、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負つたことが、直接の原因と認められるものの、既にその時点で、第一事故による受傷が、症状固定と診断してもよい程度に治癒していたからであると考えられる。したがつて、第一事故後、約一か月半を経、原告が、第二事故に遭う直前の平成四年三月六日の時点では、既に、第一事故によつて原告が受傷した外傷性頸部症候群及び腰椎捻挫の傷害は、治癒に近い状態であつたと認められ、平成四年三月九日以降の治療は、もつぱら第二事故による受傷に対する治療であると認めるのが相当である。

(三) 以上の次第で、第二事故によつて原告が負つた人損と第一事故による被告青山の過失との間には相当因果関係を認めることはできないので、第二事故より後に生じた第三事故によつて原告が負つた人損と第一事故による被告青山の過失との間にも相当因果関係を認めることはできない。

2  被告尾川の過失と第三事故との因果関係

(一) 乙ハ六の一及び二によれば、第三事故による井上外科腸病院における治療は、もつぱら鼻骨骨折等、鼻部の受傷に伴う治療であるところ、乙ハ一三の一及び二並びに一四の一及び二によつても、原告が、第二事故によつて、鼻部に受傷しているとは認められないので、この部分について、第二事故の被告尾川の過失と第三事故による原告の損害の間に、相当因果関係は認められない。

(二)(1) さらに、前記争いのない事実、乙ハ一三の一及び二によれば、原告は、第二事故によつて外傷性頸部症候群、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害をも負つたところ、原告は、平成四年三月九日に摂南総合病院に通院した後、同年三月一三日に、岡田整形外科医院に通院したこと、その際に、特に顕著な症状はなく、X線検査等で異常を認める所見もなかつたこと、原告は、同月一七日にも岡田整形外科医院に通院したが、その後は、同年四月一七日までの一か月間通院していなかつたこと、その後、同月二二日に岡田整形外科医院に通院して治療を受けたが、その後は、第三事故後の同年五月五日までの間、通院していないこと、これらの間の治療内容も、理学療法を施されただけであつたこと、原告は、同年五月五日に第三事故に遭い、外傷性頸部症候群、腰椎挫傷の傷害を負つたこと、岡田整形外科医院の岡田医師は、原告が第三事故に遭い、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫の傷害を負つたことを確認して、第二事故による受傷は、同年四月二二日付で症状固定となつたと診断していることが認められる。

(2) 右認定の事実によれば、原告が、第二事故によつて負つた傷害は、他覚的所見のない外傷性頸部症候群、頸椎捻挫、腰椎捻挫であり、治療は理学療法が施されているだけであり、原告の通院の経過に鑑みても、その症状は軽微なものであつたと認められる。そして、前記岡田医師が、第二事故による受傷が、平成四年四月二二日付で症状固定となつたと診断したのは、第一事故の際と同様に、原告が第三事故に遭い、外傷性頸部症候群、腰椎挫傷の傷害を負つたことが、直接の原因と認められるものの、既にその時点で、第二事故による受傷が、症状固定と診断してもよい程度に治癒していたからであると考えられる。したがつて、第二事故後、約二か月を経、原告が、第三事故に遭う前の平成四年四月二二日の時点で、既に、第三事故による受傷は治癒していたと認められ、平成四年五月五日以降の治療は、もつぱら第三事故による受傷に対する治療であると認めるのが相当である。

よつて、第三事故によつて原告が負つた外傷性頸部症候群、腰椎挫傷の傷害の治療と第二事故による被告尾川の過失との間にも相当因果関係を認めることはできない。

(三) 結局、第三事故によつて原告が負つた人損と第二事故による被告尾川の過失との間には、相当因果関係を認めることはできない。

3  被告青山、同尾川及び同山田の各過失と第四事故との因果関係

(一) 前記のとおり、第三事故による人損と第一事故における被告青山の過失及び第二事故における被告尾川の過失との間には相当因果関係が認められないのであるから、第三事故よりも後に発生した第四事故によつて原告が負つた人損と、第一事故による被告青山の過失及び第二事故による被告尾川の過失との間には相当因果関係を認めることはできない。

(二) 次に、前記争いのない事実、甲四、五、六の一及び二、乙ハ五の一及び二、六の一及び二、七の一及び二、八の一及び二によれば、原告が、第二事故によつて負つたのは、外傷性頸部症候群、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害であるが、原告は、平成四年五月六日に岡田整形外科医院に通院した後、同年五月七日から同月二一日までの間は、井上外科腸科病院に入院して鼻骨骨折等の治療を受けたこと、井上外科腸科病院を退院後、再度、岡田整形外科医院に通院し、同年八月三日付で症状固定と診断されていること、その間、原告が、木場病院や都立大塚病院に通院し、頸部捻挫等の治療を受けていることが認められるが、同年八月三日以降は、原告は、第三事故による傷害の治療を受けていないこと、第三事故と第四事故の間の平成四年一二月二八日に、訴外富田昌之(以下「訴外富田」という。)との間で、側面衝突の事故に遭つて腰部打撲の傷害を負い、同日、久我山病院で治療を受けたこと、その際の診断では、腰痛を訴えたが、他の異常は訴えず、また、X線検査では異常所見がなく、神経学的所見も正常で、その後、同病院で治療は受けておらず、治療費も支払済みであること、原告は、右事故によつて、他の病院でも治療は受けてもおらず、治療は、右久我山病院の治療で終了したことが認められる。

以上の事実によれば、原告が第三事故によつて負つた傷害は、遅くとも第四事故前の平成四年八月三日の時点で治癒していたと認められるので、第三事故における被告山田の過失と第四事故によつて原告が負つた人損との間には、相当因果関係は認められない。

4  以上の次第で、第三事故の人損については被告山田及び同会社だけが、第四事故の人損については被告坂本だけが、それぞれ責任を負うものと認められる。

二  過失相殺

1(一)  争いのない事実、甲一九、乙ホ一の一及び二並びに原告及び被告坂本各本人尋問の結果によれば、第四事故現場は、片側二車線の首都高速道路環状線外回り上であること、原告は、第二原告車を運転して、第四事故現場の左側車線を銀座方面に向かつて時速約一一〇ないし一二〇キロメートルで進行していたところ、方向指示をしないまま、右側車線に第二原告車を進出させたこと、一方、被告坂本は、坂本車を運転して、第四事故現場の右側車線を銀座方面に向かつて時速約一一〇ないし一二〇キロメートルで進行していたが、左前方の左側車線上を進行していた第二原告車を追抜こうと考え、加速して進行したところ、第二原告車が、左側車線から右側車線に進入してきたため、第二原告車の右後部と坂本車の左前部が衝突し、第四事故が発生したことが認められる。

(二)  原告は、甲一九及び本人尋問中で、第二原告車は、右側車線に進出しておらず、坂本車が左側車線に進入してきて本件事故が発生した、原告車は時速約六〇ないし七〇キロメートルで進行していたと供述している。

しかしながら、第二原告車は、右側車線に進出しておらず、坂本車が左側車線に進入してきた本件事故が発生したとの供述部分は、警察官が、第四事故直後に原告及び被告坂本双方から事情を聴取して作成し(原告が、第四事故直後に警察官に事故状況を説明したことは、原告作成の甲一九中で、原告自身が供述している。)、十分に信用できる乙ホ一の一及び二の内容と矛盾しており、信用できない。また、原告車は時速約六〇ないし七〇キロメートルで進行していたとする供述部分は、第二原告車は時速約一一〇ないし一二〇キロメートルで進行していた旨の被告坂本の供述には信用性を損なう部分は認められないこと、原告は、甲一九及び本人尋問中で、左側車線を走行中、先行する数台の車両を追い越して進行した後に本件事故に遭つたとも供述しているのであり、かかる原告自身の供述と照らし合わせても、制限速度を遵守したか、または、制限速度を一〇キロメートル程度超過した時速約六〇ないし七〇キロメートルで進行していたとの原告の供述は信用しがたいことに照らし合わせても、信用しがたい。

よつて、甲一九及び本人尋問中の原告の右各供述部分は採用しない。

2  以上認定した事実によれば、被告坂本に、左前方を進行していた第二原告車の動静注視義務違反、制限速度遵守業務違反の過失が、また、原告にも、車線変更をする際の左後方注視義務違反、方向指示義務違反、制限速度遵守義務違反の過失が認められる。そして、右認定のような第四事故の態様、原告、被告坂本の双方の過失の態様に鑑みると、本件では、原告の損害から八割を減殺するのが相当である。

第四損害額の算定

一  第一事故によつて原告に生じた損害

1  慰謝料 一四万円

原告の受傷の内容及び程度、原告が治癒までに要した治療期間及び通院日数、その他、本件における諸事情を総合すると、第一事故に関する慰謝料は一四万円と認めるのが相当である。

2  弁護士費用 二万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は二万円と認められる。

3  合計 一六万円

二  第二事故によつて原告に生じた損害

1  慰謝料 一〇万円

原告の受傷の内容及び程度、原告が治癒までに要した治療期間及び通院日数、その他、本件における諸事情を総合すると、第二事故に関する慰謝料は一〇万円と認めるのが相当である。

2  弁護士費用 一万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他の、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は一万円と認められる。

3  合計 一一万円

三  第三事故によつて原告に生じた損害

1  人損 一二八万〇一六四円

(一) 治療費 五四万三二四〇円

当事者間に争いがない。

(二) 入院雑費 一万九五〇〇円

乙ハ六の二によれば、原告は、本件事故によつて一五日間入院して治療を受けたことが認められるところ、右入院期間中に雑費として、経験則上、一日当たり一三〇〇円を要したと認められる。

(三) 交通費 八一〇〇円

弁論の全趣旨によつて認める。

(四) 休業損害 三五万九三二四円

乙ハ一五によれば、原告は、第三事故当時、訴外ブレインズコーポレイテツドに勤務し、第三事故前の平成四年二月から同年四月までの九〇日間に合計一一五万五〇〇〇円の収入を得ていたことが認められるので、原告の第三事故当時の一日当たりの収入は、一万二八三三円(円未満切り捨て。以下、同じ。)と認められること、原告は、第三事故翌日の同年五月六日から当年六月三日までの二八日間休業をし、右収入を得ることができなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

よつて、原告の休業損害は三五万九三二四円と認められる。

(五) 慰謝料 三五万円

原告の受傷の内容及び程度、原告が治癒までに要した治療期間、入院日数及び通院日数、その他、本件における諸事情を総合すると、第三事故に関する慰謝料は三五万円と認めるのが相当である。

(六) 合計 一二八万〇一六四円

2  物損 三九二万円

(一) 第一原告車が訴外ミツワ自動車販売株式会社(以下「訴外ミツワ」という。)から購入し、代金を担保するため、訴外ミツワに所有権が留保されていたこと、使用者は原告であつたこと、第三事故によつて第一原告車は破損したが、修理可能であり、第三事故によつて侵害されたのは、原告の第一原告車に対する使用する利益であることが認められるので、本件では、原告は、被告山田及び同会社に対して、第一原告車が破損したことに基づく損害を請求できると認められる。

(二) 修理費 三四五万円

(1) 甲一、二一ないし二五、証人根本秀雄尋問の結果により認める。

(2) 被告山田及び同会社は、乙ハ二五、二六及び証人竹村昌己の証言を元に、第一原告車の修理が過剰修理である旨主張する。

しかしながら、甲一、二一ないし二五から認められる第一原告車の修理内容には、不相当な点は認められない。乙ハ二五、二六は、証人竹村昌己の証言からも明らかなように、乙ハ四の一ないし七の写真だけを参考にして検討しているものに過ぎない。いかなる部分に、どの程度の修理が必要かは、写真のみによつて外部から状況だけで判断できるものではなく、内部の破損状況も考慮して初めて判断できるものである。第一原告車の修理の相当な範囲を判断するに際し、実際に第一原告車を分解、点検し、内部の状況も含めて、破損状況を調べて修理の必要性、相当性を判断し、修理価額を算定した甲一、二一ないし二五及び証人根本秀雄尋問の結果の方が、写真で、外形からだけで判断している乙ハ二五、二六及び証人竹村昌己の証言に比して、信用性、相当性が高いことは明らかである。

よつて、被告山田及び同会社の主張は採用できない。

(三) 評価損 三五万円

第三事故によつて、第一原告車が破損した程度、修理の状況、第三事故までの間にも、第一原告車が事故によつて破損し、修理をしている事実、第一原告車の本件事故までの使用期間、その他、本件における諸事情を総合すると、第三事故によつて、第一原告車に三五万円の評価損が生じたと認めるのが相当である。

(四) 代車料 一二万円

原告は、代車料一二〇万円を請求し、甲二の一ないし三、本人尋問における原告の供述等、右主張に沿う証拠も認められる。

しかしながら、原告は、本人尋問において、右代車は、当時交際していた訴外田島佳緒里(以下「訴外田島」という。)から借りていた、仕事以外に、訴外田島との交際等、私的な目的でも使用していたことなどを供述しており、右のような事情によれば、原告が、訴外田島から代車を借りていたとの点について疑問が残るのみならず、仮に、訴外田島から代車を借りていたとしても、同人と原告の私的な関係から、好意で代車を借りていた疑いが否定できず、前記各証拠をしても、原告が訴外田島に対し、合計一二〇万円の代車代金を支払つていたと認めることはできない。

したがつて、代車代金として容認できるのは、被告山田及び同会社が認めている一二万円を上回ることはなく、右認定に反する証拠は採用しない。

(五) 合計 三九二万円

3  合計 五二〇万〇一六四円

4  損害てん補 一〇六万四三二〇円

被告会社が、原告に対し、合計一〇六万四三二〇円を支払つた事実は当事者間に争いがない。

5  損害残額 四一三万五八四四円

6  弁護士費用 四二万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は四二万円と認められる。

7  合計 四五五万五八四四円

四  第四事故によつて原告に生じた損害

1  人損 一五万六一二〇円

(一) 治療費 六万一三六〇円

(1) 原告は、第三事故によつて、頸椎捻挫、全身打撲、腰痛症の傷害を負い、平成五年四月一一日から同月一九日までの間、聖路加国際病院に通院し(実通院日数二日間)、同年五月三一日に千歳診療所に通院し、同年六月一日から同年七月二二日までの間、井上外科に通院して(実通院日数七日間)、治療を受け、合計六万三四六三円の治療費を要したと主張している。

(2) 甲八の一及び二、九の一及び二、一〇の一、一七によれば、原告は、全身打撲の傷害を負い、平成五年四月一一日から同月一九日までの間、聖路加国際病院で治療を受けたが、同病院での治療期間中、原告は、頸椎の異常を訴え、ネツクカラー着用の施術を施されているものの、腰部については全く異常を訴えておらず、何らの治療行為も行われていなかつたこと、また、頸部の外、腰部にもX線検査がなされたところ、生理的弯曲が認められたものの(部位は、証拠上不明である。)、その後、同月一九日までの間にはこれも消失し、X線上は、格別の異常所見は認められなくなつたこと、原告は、同月一一日と同月一九日の二日間だけ聖路加国際病院に通院し、その後は、同病院には通院していないこと、ところが、原告は、平成五年五月三一日に、腰痛を訴えて千歳診療所に通院したが、その際に、右腰部に、歩行困難な程の激痛があり、腰椎椎間板ヘルニアの疑いがあつて、腰椎症と診断されたこと、しかしながら、原告は、当日だけ同病院に通院し、その後は、同病院には通院していないこと、さらに、同年六月一日に、原告は、同年五月三一日以来の腰痛を訴えて井上外科に通院し、レントゲン検査の結果、腰椎側弯位の異常が認められたが、他に、異常所見は認められなかつたこと、原告は、同月四日、同月八日、同月一二日、同月二六日、同年七月三日、同月二二日と同病院に通院したが、その後は通院していないことが認められる。

以上の事実によれば、第三事故直後の聖路加病院における診察の際には、原告は、腰部には全く異常を訴えておらず、その後の聖路加病院における治療期間を含め、平成五年五月三一日に腰痛を訴えるまでの約五〇日間は、全く腰部に異常を認めなかつたのであり、かかる腰痛の発生経過を見ると、第四事故によつて原告が腰部に受傷したとは認め難く、平成五年五月三一日以降に発症したと認められる腰痛は、第四事故との因果関係を認めることができない。

(3) したがつて、第四事故との因果関係が認められるのは、聖路加病院における頸部捻挫等の治療だけであるところ、甲八の二によれば、原告が聖路加病院の治療で要した治療費は六万一三六〇円と認められるので、第四事故と因果関係が認められる治療費は、六万一三六〇円と認められる。

(二) 休業損害 一万四七六〇円

甲一一の一及び二によれば、原告は、第三事故当時、訴外ブレインズコーポレイテツドに勤務し、第四事故前の平成五年二月から同年四月までの八九日間に合計一一二万五〇〇〇円の収入を得ていたと認められるので、原告の第四事故当時の一日当たりの収入は、一万二六四〇円と認められること、原告は、第四事故翌日の平成四年四月一二日から同月二七日までの一四日間と同年六月一日から同月一六日までの一六日間、休業をしたことが認められる。

ところで、前記のとおり、第四事故と因果関係が認められるのは、聖路加病院で治療を受けた期間だけであるので、第四事故と因果関係が認められる休業期間は、平成四年四月一二日から同月二七日までの一四日間だけである。右のとおり、原告の第四事故当時の一日当たりの収入は一万二六四〇円と認められるので、その間の得べかりし利益は一七万六九六〇円と認められるところ、甲一一の一によれば、原告は、その間、訴外ブレインズヒーポレイテツドから一六万二二〇〇円の収入を得ているので、原告の休業損害は、右の差額の一万四七六〇円と認められる。

(三) 慰謝料 八万円

原告の受傷の内容及び程度、原告が治癒までに要した治療期間及び通院日数、その他、本件における諸事情を総合すると、第三事故に関する慰謝料は八万円と認めるのが相当である。

(四) 合計 一五万六一二〇円

2  物損 三九一万九〇六〇円

(一) 車両価格 三九〇万円

甲一四によれば、第二原告車が第四事故によつて負つた破損部分を修理するための修理費は、四〇九万三三七〇円であること、第二原告車の本件事故時の時価は三九〇万円であることが認められるので、第四事故による車両の損害は経済的全損と認められ、損害額は三九〇万円と認められる。

(二) レツカー代 一万九〇六〇円

甲一二の一及び二により認める。

(三) 合計 三九一万九〇六〇円

3  合計 四〇七万五一八〇円

4  過失相殺

前記のとおり、本件では原告の損害から八割を減額するのが相当であるから、その結果、原告の損害額は人損、物損の合計八一万五〇三六円と認められる。

5  弁護士費用 九万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は九万円と認められる。

6  合計 九〇万五〇三六円

第五結論

以上のとおり、原告の請求は、被告青山に対し、金一六万円及びこれに対する平成四年一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを、被告尾川に対し、金一一万円及びこれに対する平成四年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを、被告山田及び同会社に対し、各自、金四五五万五八四四円及びこれらに対する平成四年五月五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを、被告坂本に対し、金九〇万五〇三六円及びこれに対する平成五年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを、それぞれ求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

(裁判官 堺充廣)

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